研究概要 |
ダウン症候群(DS)由来歯肉上皮の易感染性を調べるin vitro実験を行った.Porphylomonas gingivalisの付着・侵入能を評価した結果,健常者由来の細胞よりもダウン症候群の細胞で同菌の付着・侵入率が有意に高値を示した.このことは,DSの歯周ポケット上皮が同菌に対して易感染性であることを示しており,早期からのP.gingivalis定着と歯周疾患を発症させる重要な因子になると考えられた. 次にDS歯肉上皮細胞はin vitroにおける生存率が低く実験が行い難いため,DS歯肉上皮細胞の培養法の改良を試みた結果,DMEM培地では歯肉上皮細胞のほかに線維芽細胞などもみられたが,さらにこれらの細胞を上皮角化細胞増殖用無血清培地(HuMedia-KG2)で培養すると,上皮細胞のみが生存,増殖した.また分裂増殖する細胞の割合は,DMEM培地よりもHuMedia-KG2培地の方が多かった.DS歯肉上皮細胞の生存日数は,分裂増殖の旺盛な低年齢児由来のものでも,同年齢の健常時のものと比較して短かった. 位相差顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡を用いて,歯肉上皮細胞の形態を観察したところ,HuMedia-KG2培地中では,DSおよび健常者歯いずれの肉上皮細胞とも敷石状のコロニー形成を示したが,DMEM培地ではどちらもコロニー形成を示さなかった. P.gingivalisのDS歯肉上皮細胞への付着・侵入率は,健常者細胞への付着・侵入率に比べて有意に高かった.また,抗インテグリン抗体を同時に加えた場合,付着・侵入率は有意に減少した. 以上のことから,DS由来細胞の培養では,無血清培地のほうが歯肉上皮を選択的に培養できると考えられた.無血清培地を用いてもDS歯肉上皮細胞の培養には困難な問題があり,これは染色体過剰による細胞の分裂と維持に関わるタンパクの異常やtelomereの減少などが原因ではないかと考えられた.これらのことからさらなる培養法の改良と,DS歯肉上皮細胞を不死化することが必要であると考えられる.またDS細胞では,P.gingivalisの付着・侵入に関わるインテグリン分子が量的・質的に変化していることが示唆された.
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