研究概要 |
プラークならびに象牙細管中に生息する細菌の糖代謝経路の動的変化を解析することは,象牙質齲蝕の発症と進行機序を解明する上で重要な課題である。申請者らは,S.mutansのグルカン合成に関与するGTFB/C/Dをコードする遺伝子(gtfB, gtfC, gtfD)を欠失させた遺伝子改変株を用いてウシ人工齲蝕象牙質を作製し,培地のスクロース濃度を変化させて連続的に培養した場合の,グルカン合成に関わる酵素の遺伝子発現あるいは付着グルカンの合成量を解析すると共に,細管への細菌侵入に伴う形態学的変化について検索した結果,以下の所見を得た。すなわち,1.親株であるS.mutans MTならびに欠失株であるS2株(gtfB(-))およびDE1株(gtfD(-))において,スクロースの濃度に関わらず,gtfCの発現量が最大であり,GTFCのグルカン合成過程における重要性が示唆された。2.gtfB遺伝子はスクロースの有無に依存して発現しているのに対し,gtfC, gtfDはスクロースの影響を受けず,高栄養状態でのグルカン合成にgtfBが重要な働きをしていることが示唆された。3.スクロース濃度の低い状態では,付着非水溶性グルカンが増加したが,gtfC欠失株のみ,その増加を認めず,gtfC遺伝子がスクロース非依存的に発現することが示唆された。4.S.mutans MT, S2株およびDE1株で培養した象牙質試片においては,培地へのスクロース添加により,細管径の増大率が有意に増加したが,R4株(gtfC(-))では有意に増加しなかった。これは,R4株が他の菌株よりも脱灰能力が低下していることを示し,象牙質齲蝕における細管の拡張,すなわち脱灰に関わるグルカンの合成にgtfC遺伝子が重要な役割を担っていることが示唆された。
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