研究概要 |
炎症巣に浸潤した好中球の細胞機能および細胞死のメカニズムを解明することは、根尖病変や歯周炎の感染症に対する生体防御能を人為的に制御する医療を展開することに繋がる。本研究では、炎症巣に浸潤した好中球の細胞機能および細胞死の様態を評価することを目的とした。 平成15年度は、唾液および根尖病変から高純度に好中球を分離する方法を確立し、調整した炎症巣由来好中球を無刺激下およびPMAとZymosanで刺激して活性酸素産生能を調べた。無刺激下の好中球は、末梢血好中球に比較して有意に高い活性酸素産生能を示した。さらに、その活性は、PMAとZymosan添加により有意に上昇した。無刺激の好中球にカルモジュリン阻害剤(W-7)を加えると、活性酸素産生能は有意に低下した。一方、proteine kinase C阻害剤(H-7)を加えても活性酸素産生能は有意に低下しなかった。以上の結果から、炎症巣由来好中球はすでに活性化されて、活性酸素を産生しており、そのシグナル伝達系には、proteine kinase Cの役割は大きくないと解釈された。今後、MAPキナーゼ、srk,チロシンキナーゼ阻害剤を用いて解析し、好中球の活性化に関わるシグナル伝達系を特定したい。 一方、好中球のアポトーシスの解析は、DNA fragmentationおよびPIとannexin V染色によるFlow cytometryで解析した。アポトーシスの陽性対照として、UV照射したHL-60を使用した。クリアーなラダーが観察できたHL-60に比較して、好中球のラダーは、明瞭ではなく、スメアー状であった。一方、Flow cytometry解析により、調整直後の好中球は、早期アポトーシスに陥った細胞は10%未満であったが、4時間RPMI1640+10%FBSで培養後には、80%以上が後期アポトーシスあるいはネクローシスの状態にあることがわかった。現在、異なる培養液およびヒト血清を組み合わせて、好中球の細胞死の動態を詳細に検討しつつある。また、好中球自身が産生する活性酸素により細胞死が促進される可能性を抗酸化剤のアポトーシス抑制作用から検討する必要がある。
|