研究概要 |
近年,閉経後の女性顎関節症患者の60%以上が骨粗鬆症に罹患しており,顎関節の骨変形が高度なものほど全身骨塩量が低いという報告があり,変形性顎関節症と骨粗鬆症の関連性が疑われている。しかしながら,骨粗鬆症が顎関節に及ぼす影響は不明である。そこで本研究では,卵巣摘出後2年経過した骨粗鬆症モデルのカニクイザルの頭部標本(OVX群)とそのコントロール標本(Sham群)を用いて骨粗鬆化が変形性顎関節症に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。なおOVX群はSham群に比較して腰椎骨密度が約20%少なく、骨粗鬆症モデルであることは確認されている。これまでの研究実績としては、OVX群とSham群について顎関節部の単純X線、CT、およびμCTによる画像的解析と顎関節構成要素の肉眼的評価を行い、(1)単純X線(側斜位経頭蓋撮影法)では、下顎頭海面骨部の骨塩量は、Sham群よりもOVX群が低値を示し、(2)X線CT及びμCTを用いた分析では下顎頭と下顎窩の海面骨の骨梁形態に一見して明らかな差があり、骨密度はSham群よりもOVX群が有意に低値を示し、(4)肉眼的解剖所見では、下顎頭関節面に形態変化がみられたものの2群には差がなく、また、関節円板、下顎窩にも変化や2群の差は見られなかった。このことより、卵巣摘出による骨粗鬆化は顎関節の海面骨骨梁に影響を及ぼしていることが推測された。これを受けて当該年度においては病理組織学的な検索を進め、以下の結果を得た。(1)下顎頭表面の線維層はOVX群がSham群に比べ約2倍肥厚していた(2)線維層と軟骨層の境界は、OVX群がSham群に比べ不明瞭であった(3)下顎頭下方部の海綿骨は脂肪細胞が増加していた(4)下顎窩には下顎頭でみられたような明らかな変化は見られなかった。以上より、OVX群はSham群に比べ、下顎頭下方部および表面において退行性変化が進んでいることが明らかとなった。
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