研究概要 |
補綴物に抗菌性を付与し,材料による口腔内衛生の低下を挿えることは大切なことである.これまで銀イオンを抗菌性物質とした歯科用レジン材料の研究では,銀イオンをレジンに直接複合できず,銀イオンをゼオライトなどの担体に一度保持させ,その担体をレジンに分散させた複合材料であった.銀イオンは材料中に均一に分散されず,銀の単位体積当たりの抗菌性能は低いと考えられる.また,レジン中に担体を添加すると,レジンの硬さは増すものの,靭性を低下させ脆くなる.本研究のメタクリル酸銀は,銀を抗菌性物質としてもつモノマーであり,床用レジン材料などのモノマーであるメタクリル酸メチル(MMA)に微量可溶する.銀イオンのMMAに対する溶解量は,約84μmol/l(約9ppm)であり,銀イオンの大腸菌に対する最小死滅濃度は,約3〜13ppmと報告されていることから,この濃度は抗菌性を発現できる範囲であった.本メタクリル酸銀とMMAとの共重合体は,無色透明な重合体を与え,審美的にも問題はなかった.有機カチオン系の抗菌性モノマーであるメタクリル酸トリメチルアミノエチルクロライド(TMAC)とMMAとの共重合体は,無色透明な重合体を与え,審美的にも問題はなかった.有機カチオン系の抗菌性モノマーであるメタクリル酸とリチメチルアミノエチルクロライド(TMAC)とMMAとの共重合体の圧縮および曲げ強さは,ポリ(メタクリル酸メチル)と比べ同等の値を示し,強度の低下は認められない.一方,得られた共重合体を水中に浸したとき,共重合体から銀イオンが溶出し,抗菌性能を低下させることが考えられる.共重合体をイオン交換水中に浸し,溶出した銀イオンを銀イオン電極により定量した.銀イオンは共重合体からほとんど溶出せず,重合体中で安定に存在することが分かった.本メタクリル酸銀を応用したレジンは,抗菌性歯科用レジン材料として期待できる.
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