わが国では保険適用の歯科修復用合金として銀合金(Ag-Pd-Cu-Au系合金)を主体に使用されている。しかし、本銀合金は保険適用外の金合金に比較して破折が起こり強度的な信頼性に欠けるといわれている。この主原因は着脱時や咀嚼時の応力状況において最適化されている金合金の熱処理条件に比較して、適用部位に応じた熱処理が本銀合金には確立されていない事による。 本研究では(1)本合金の各熱処理条件におけるミクロ組織構成相の体積率を定量測定をおこない、(2)各熱処理条件におけるミクロ組織と疲労特性および摩擦摩耗特性に及ぼす影響を検討した。本研究の結果、ミクロ組織はα_1、α_2相およびβ相で構成されており、これらの総和を100%として各相の体積率を検討した。溶体化温度の上昇に伴い、α_1相の体積率が減少し、1173WQで消失しα_2相のみになった。1123WQではα_2相が減少し、α_1(2%)およびβ相(5%)で析出してくる。1073WQではα_2相およびβ相が減少し、α_1相の体積率が増加した。1123WQを673Kで時効処理したものはα_2相が減少し、α_1(3%)およびβ相(8%)と増加した。疲労強度試験の結果、溶体化水冷処理においては最大応力の高い領域(10^5回以下の低サイクル寿命領域)で溶体化温度が高いほど疲労強度が大きくなった。一方、最大応力の低い領域(10^5回以上の高サイクル寿命領域)では溶体化温度が低いほど疲労強度が大きくなった。また、時効処理においても同様な傾向を示し、疲労強度に対する最適熱処理条件は1123Kで溶体化処理を施すのが良い。また、摩擦摩耗試験では1123WQを673Kで時効処理したものが全摩耗量が最も少なく、優れた耐磨耗性を示した。
|