研究概要 |
口腔インプラントには歯根膜が存在しないため,生理的な沈下は生じない.したがって,より形態的かつ機能的に調和した咬合を付与する必要がある.目標となるべき健常有歯顎者の咬合接触状態を詳細に検討することで,口腔インプラントに付与すべき咬合接触状態の評価基準を確立することを目的とした. 被検者は健常有歯顎者10名を選択し,下顎各臼歯を被検歯とした.被検者に中等度および最大咬みしめを行わせ,金属フレームと咬合採得材(GN-I CADシリコーン,ジーシー社製)を用いて,咬頭嵌合位においてシリコーンバイトを採得した.シリコーンバイトの上下顎印象面は,非接触三次元形状計測装置(SURFLACER VMS-250R,UNISN社製)を用いて計測した.咬合力は咬合力測定用感圧フィルム(デンタルプレスケール,50H,タイプR,富士フイルム社製)と専用解析装置(オクルーザー,FPD-705,富士フィルム社製)を用いて測定した.咬合力測定用感圧フィルム上の発色部位と形態から,咬合力がどの咬合接触域に作用したものかを同定した.咬合接触域に含まれる点群から発生させた法線ベクトルを合成し,傾斜方向を求め,作用する咬合力を大きさとした三次元咬合力ベクトルを求めた.各歯の咬合接触点数,咬合接触面積,合力,合力軸周りのモーメント,合力軸の傾斜方向について解析を行った. 咬合接触点数,咬合接触面積,合力,合力軸周りのモーメントは小臼歯に比べて大臼歯で大きい傾向を示した.合力軸の傾斜方向は,矢状面観においても前頭面観においても,咬合平面に対してほぼ垂直であった. 咬みしめ強度の増加に伴い,咬合接触点数,咬合接触面積,合力,合力軸周りのモーメントは有意に増加した.しかし合力軸の傾斜方向には大きな変化はなかった. 口腔インプラントに咬合接触を付与する際にも同様の咬合接触を付与すべきであると考える.
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