研究概要 |
1992年のザ・モレキュール・オブ・ザ・イヤーとして脚光を浴びたNO(一酸化窒素)は、循環器系、脳神経学系を中心とする各分野で、その重要性が明らかにされた(2000;Amer.J.Physiol.,引地)。われわれは骨形成・骨吸収機構において、NOが重要な代謝調節因子であることを明らかにした(2000;Amer.J.Physiol.,引地、1997;FBS letter,引地)。NOを合成する酵素には、サイトカインの刺激によりinducible NO合成酵素(iNOS)を誘導し、これより産生されるNOは細胞障害性の強いperoxynitrite(ONOO^-)に変化し、骨破壊をおこすという機構も明らかにした(2000;Amer.J.Physiol.,引地)。また、iNOSのアンチセンス遺伝子を骨芽細胞に導入し、iNOSによるNOの産生を抑制することによって、炎症時の骨破壊機転が阻止することを明らかにした(2003;Amer.J.Physiol.,安部)。 本研究では、ヒトへの病原性を持たず、効果が長期発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いたiNOS antisenseによる遺伝子治療が、関節炎モデル動物の1つであるアジュバント誘導型関節炎(AIA)ラットにおいて有効か否か検討することをその目的とした。その結果、現在使用可能な5種類のAAVセロタイプ(AAV1-AAV5)の中でAAV3が最も高い遺伝子発現を持つことを示し、さらにこのAAV3ベクターを用いたiNOS antisense DNAが関節炎発症後の炎症および骨破壊の抑制に有効であることがわかった(投稿準備中)。本研究の意義は、iNOSの制御により、関節リウマチだけでなく変形性関節炎やシェーグレン症候群等のリウマチ性疾患、難治性の顎骨・骨髄炎などの炎症性骨破壊病変、歯周病、さらに顎関節症を治癒する道を開くことを可能にすることにある。
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