骨吸収性病変である歯原性顎骨嚢胞の嚢胞腔内圧を測定すると、平均約80mmHgで、その大きさは嚢胞の組織型によらず、嚢胞の大きさに逆相関することが判明した。過去のわれわれの研究結果は、歯原性角化嚢胞の裏層上皮細胞は炎症性サイトカインの一種であるインターロイキン1α(IL-1α)を強く発現しており、その発現は嚢胞腔内圧の減圧術によって有意に減少することを示し、嚢胞腔内圧が裏層上皮細胞でのIL-1αの発現に影響を及ぼす可能性を示唆した。そこで、本研究では陽圧刺激のIL-1αの発現やコラゲナーゼ、破骨細胞分化誘導因子の発現に及ぼす影響について検討した。その結果、80mmHgの陽圧刺激は上皮細胞でIL-1α mRNA発現や蛋白分泌を増加させた。また、同じ陽圧刺激は線維芽細胞ではMMP-1、MMP-2、MMP-3、PGE_2の分泌やRANKL mRNAの発現には影響を及ぼさず、上皮細胞から分泌されたIL-1αが線維芽細胞からのMMP-1、MMP-2、MMP-3、PGE_2の分泌を増加させるとともに、RANKL mRNAの発現を増加させた。しかし、OPG mRNAの発現には圧刺激、IL-1αとも影響を及ぼさなかった。また、IL-1αによるPGE_2の分泌増加は、線維芽細胞におけるAP-1とNF-kBの活性化によってCox-2の発現が増強されることによることと考えられた。さらに本研究では、そのIL-1αが線維芽細胞において破骨細胞分化誘導因子であるRANKL mRNAの発現も増強させることを示した。実際、上皮細胞と線維芽細胞の共存培養実験から、陽圧刺激によって角化細胞からのIL-1αの分泌が増加され、そのIL-1αが線維芽細胞にparacrine的に作用することによってMMP-1、MMP-2、MMP-3、PGE_2の分泌増加が生じることを示した。 以上より、陽圧刺激は上皮細胞でのIL-1αの発現を増強させ、そのIL-1αが線維芽細胞での骨代謝に影響を及ぼす因子の発現調節に関わり、骨吸収を促進させると示唆された。
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