研究概要 |
頭頸部悪性腫瘍の各組織型由来細胞株において重粒子線がどのようなDNA構造変化を引き起こしているか、また、X線と重粒子線による遺伝子の反応の相違について検討した。 方法:4種類の頭頸部由来細胞株(口腔扁平上皮癌・唾液腺癌・悪性黒色腫・正常ケラチノサイト)に対し、炭素イオン線を1,4,7GyE, X線を1,4,8Gy照射した。重粒子、X線とも照射後経時的にDNAとRNAを抽出精製した。構造異常については第17番染色体上にの6ヵ所のマイクロサテライト領域をPCR-LOH法で検討した。また、放射線照射後の遺伝子発現変化をマイクロアレイで調べ、遺伝子を機能別群に分類し、放射線照射による遺伝子変化を明らかにし、その原因となるDNA構造変化について考察した。 結果と考察:放射線照射後の17番染色体のマイクロサテライト領域の欠失パターンは、X線照射後では低線量のうちは対立遺伝子の一方のみの欠失、つまりDNA鎖の1本のみの欠失が多く、高線量X線ではDNA鎖2本ともの欠失(ホモ欠失)が検出できた。これに対し、重粒子線照射による損傷はほとんど全てがホモ欠失であった。これらのことより、X線照射では2本鎖DNAの1本の損傷が多く起こり、重粒子線照射では2本鎖DNAの2本ともに損傷が起きることが多いことが判明した。さらに、放射線照射による遺伝子の発現変化は単に発現低下のみでなく、反応性に多くの遺伝子の発現が高まっていることが明らかになった。重粒子線照射による発現変化を遺伝子の機能別に見ると、"Structure Protein"群の反応が大きく、放射線照射によるダメージに細胞骨格が抵抗しているように考えられた。また、"Microtubular Dynamics"群と"Motor"群の発現低下が特徴的であり、細胞内物質移動や染色体などの分離を傷害されているものと考えられた。
|