全身麻酔が必要な要素の一つに自律神経系の安定がある。一方、全身麻酔には、(1)前投薬、(2)麻酔導入(挿管)、(3)麻酔維持、(4)筋弛緩リバース・覚醒・抜管、という一連の流れがある。そのステージ毎に用いられる薬物が患者の自律神経の安定化にどの程度寄与しているか、自律神経モニターを用いて評価した。 1.前投薬の影響 前投薬のヒドロキシジンおよびミダゾラムは鼻処置の刺激を抑制することはできず、鼻処置は入眠後に行うべきであると考えられた。 2.導入薬および麻酔維持薬の影響 今回用いたすべての麻酔導入薬で自律神経活動の抑制が観察された。セボフルラン(S)とイソフルラン(I)の揮発性麻酔薬と静脈麻酔薬のプロポフォール(P)では顕著で、チオ・ペンタールではその抑制効果が弱い傾向にあった。挿管による交感神経系への刺激を麻酔導入薬は抑えることができなかった。しかし、合成麻薬フェンタニル(F)の導入時使用により副交感神経系を刺激して自律神経系全体のバランスが保たれる傾向を示し、麻酔導入時のFは有用であった。Sと1は術中十分な自律神経の抑制効果があり、その度合いは濃度に依存していた。笑気を空気に代えSでI.2MACを維持した例から、笑気は全身麻酔中0.66MACの鎮痛作用を有することで、結果的に自律神経系の安定に寄与していることが示唆された。また、揮発性麻酔薬のMACにおける相加効果(MACの足し算)が観察できた。一方、維持に用いたPの自律神経抑制効果は弱く、Fの併用が必要であることが観察された。 3.リバース 硫酸アトロピン投与により、高周波成分の減少の持続、低周波成分/高周波成分の一過性の上昇が認められた。エドロホニウム(E)およびネオスチグミン(N)投与によりすべての症例で心拍数の減少を認め、また、Eの方がNより早期に出現した。心拍数の減少とHFの上昇とは明らかな関係はみられなかった。
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