顎変形症患者、特に骨格性下顎前突症患者に対して行われる下顎枝矢状分割術の目的は、単に良好な顔貌形態を得るためのみならず、著しい不正咬合を改善し、構音・咀嚼などの顎口腔系の機能を改善することにある。 特に口腔は、第一の消化器として認識され、以前より咀嚼能力の回復については検討が進められており、治療後には咀嚼能力が良好に改善されるとの報告もされている。臨床においてもその結果を裏付けするように、初診問診時に胃腸障害を訴えていた患者が、術後にその改善を自覚し体重の増加を認めた症例も多い。 しかし実際に骨格性下顎前突症患者において、術前にどの程度の消化器疾患を合併しているのか、それが術後にどの程度改善されるかについて検討された報告は、現在のところ全く見られない。 現在、ボランティアの健常者群(A群)に対し、同条件下(年齢、性別、体重の各因子につき統計的有意差なき群)においてそれぞれC^<13>-acetate呼気試験を施行し、胃排出能を計測している。 今後、骨格性下顎前突症患者においてその治療前・後における消化器機能の変化を観察することで口腔と全身との関わりを更に深く検索する。今までこの呼気試験はヘリコバクターピロリ感染、腸吸収試験などに応用されてきた。しかし、歯学領域疾患における上部消化管機能臨床試験は見あたらない。顎変形症治療後の咬合および咀嚼力に対する客観的評価は当研究室においても改善が認められるものの、咬合や咀嚼に対してその消化器機能的な面、特に胃排出能の評価が進んでいないのは、従来の検査法が頻回の採血を要するアセトアミノフェン法や、わずかながらも被爆の懸念があるシンチグラムなど侵襲的で患者の負担が大きかったためとも考えられる。従って、呼気試験は無侵襲で簡便であり、この評価には最適な方法と思われる。
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