研究概要 |
口腔扁平上皮癌(OSCC)200例におけるCOX-2発現と増殖動態の検索で、COX-2が転移に際して早期に誘導され、高発現例に予後不良例が多い(高発現例の74%)ことを見い出した。またCOX-2は癌の浸潤先進部に極めて高発現し、口腔癌における浸潤・転移関連遺伝子および予後因子としての性格を有することが判明した。次にCOX-2発現に関連するp53-Rb pathwayおよび細胞周期制御遺伝子群の動向を主体に検索を行った。そこでCOX-2発現に関連するp53およびRbの各遺伝子に直接的的関与が予想されるHPV-E6,E7遺伝子発現について、COX-2発現のみられた口腔扁平上皮癌82例におけるHPV16型および18型の検出を、IHCおよびBrigati標識オリゴプローブを用いたISH法により行ったところ、COX-2低発現例45例のうち、78%にHPV16型が、また69%に18型が検出された。以上について総合的に検討した結果、両型陽性例の全例におけるTopoIIα Liの高値、Rb蛋白の過剰発現に連動して、p21/p53、cyclinB, D1,E過剰発現が認められたが、p27蛋白の発現低下は示されなかった。 以上より、OSCCにおいては、COX-2過剰発現とともにCOX-2 path-wayを介したp53-Rb経路における様々な細胞周期制御遺伝子の破綻により、cell cycleを急激に進行させ口腔癌の増殖を高めるが、COX-2低発現とともにHPV16/18型が検出される例においては、E6,E7遺伝子の関与により、p27遺伝子異常を修復回避する可能性が示唆された。またCOX-2高発現例においては、p27蛋白の著明な発現低下に連動することによりOSCCの進行が加速し、予後不良に関与するものと推察された。一方、COX-2低発現例においては、HPV16/18型の高発現およびp27蛋白レベルが比較的安定で、癌の増殖を局所に止め、予後を比較的良好に保つ可能性が示唆された。以上の検索結果から、COX-2は様々な細胞周期制御遺伝子の異常と連動し、口腔癌の浸潤および転移と密接に関連するとともに、予後因子と成り得るものと考えられた。さらに浸潤および転移に伴いCOX-2およびlaminin-5γ2、Integrinα発現の関連性について検討したところ、COX-2,Laminin-5γ2間の相互発現が73%に認められ、COX-2が各種癌遺伝子異常を受けて腫瘍浸潤機能分子の発現を誘導し、浸潤性獲得と助長に関与する可能性が考えられた。今後、口腔癌の浸潤および転移におけるこれら相互の役割、COX-2誘導因子の同定、COX-2 pathwayにおける関与についても検討を進めたいと考えている。
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