本研究の目的は、小児期における習慣性口呼吸が咀嚼・嚥下機能と姿勢に及ぼす影響を明らかにすることである。その方法を確立するために、成人ボランティアを対象とした予備実験を初年度に行った。健康成人における人為的鼻閉下で、クッキーやヨーグルトを摂取させ、その際の咬筋、口輪筋、胸鎖乳突筋の筋活動、喉頭運動と、腹部呼吸ピックアップによる呼吸運動を同期させて記録し、摂食・嚥下時の呼吸との協調の様子を分析した。その結果、口呼吸と関連すると報告のある僧帽筋の筋活動の変化は見られなかった。また、鼻閉時の摂食時呼吸周期の乱れと、嚥下時を挟む呼吸周期の著しい延長、嚥下直後の呼吸曲線振幅の減少が認められた。鼻閉時の咀嚼時には全体的には過去の報告のように、咀嚼回数の減少傾向がみられたが、咬筋の筋放電周期、筋放電間隔、筋放電持続時間の変化のパターンには個人差が見られた。一時的な人為的鼻閉時には、個々が習得している正常な摂食嚥下機能をアレンジして代償性反応をとっていると思われた。 成人での結果をもとに、小児では、口呼吸者を抽出して、呼吸動態の評価とクッキー咀嚼嚥下時の口唇閉鎖状態と咀嚼回数を記録した。用いたネイザルアダプターによる呼気CO2分圧の測定による呼吸様式の観察は、簡便で有用な方法であった。この観察により習慣性口呼吸と判定された小児では、クッキー咀嚼時の口唇閉鎖率は明らかに低く、呼吸リズムと呼気CO2分圧の変動が大きかった。安静時開口がみられ、口呼吸が疑われたが口唇閉鎖が可能で安定した呼吸リズムを示した小児では、クッキー咀嚼時でも呼吸リズムの乱れはなかった。被験者間のクッキー咀嚼回数、処理時間には差がみられなかった。口呼吸時の摂食嚥下機能と呼吸の協調に関してさらなる検討が必要ではあるが、評価のために有用な方法が得られた。
|