本研究の目的は、1.器官培養系を用いたラット口蓋粘膜の創傷治癒モデルを確立、2.筋線維芽細胞の分化におけるSmad系を介したシグナル伝達機構、およびアポトーシスにおけるASK1-MAPKを介したシグナル伝達機構の解析である。 1.実験動物にはラットを用い、器官培養系における至適条件は、無血清のWeymouth's MB752/1培地を用い、培地と気相の界面にて培養、37度湿潤下、55%酸素/5%二酸化炭素であることを確認した。 2.FGFは細胞の増殖や分化に関与し、創傷治癒や組織のリモデリングに深く関与する。そこで、瘢痕形成におけるシグナル伝達にFGFが関与している可能性を検討するために、FGFリセプター(FGFR)の発現をin vitroの系をもちいて確認した。ラット口蓋粘膜切除後28日の瘢痕組織について、FGFR発現を検討した。その結果、瘢痕組織中の筋線維芽細胞の核に、FGFR1の強い発現を認めた。一方、FGFR2に関しては、FGFR1よりも発現が弱く、FGFR3の発現は認められなかった。そこで、瘢痕形成期に出現する筋線維芽細胞の分化誘導因子であるTGF-β1を作用させて、in vivoの実験を行った。ラット口蓋粘膜組織由来線維芽細胞を培養し、その培地にTGF-β1(5ng/ml)を作用させた。48時間後、FGFRの発現を上記同様の手法にて検討した。その結果、TGF-β1を作用させない群においては、いずれもFHFRもその発現を認めなかった。一方、TGF-β1を作用させた群においては、FGFR1の強い発現を認めた。また上記、in vitroの実験と同様、FGFR2に関しては、FGFR1よりも発現が弱く、FGFR3の発現は認められなかった。これらの結果より、口蓋粘膜創傷治癒過程において、FGFR1とFGFR2が何らかの役割を果たしていることが示唆された。
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