研究概要 |
矯正中の歯牙,脱臼や咬合性外傷による外傷歯,再植歯などの歯科治療時に度々遭遇する問題に歯根吸収がある.この歯根吸収を引き起こす因子として各種炎症性サイトカイン、ケモカイン等の関与が示唆されている。矯正力などの力学的付加を与えたときに,歯牙を支える骨は骨芽細胞と破骨細胞の協調により改造される事が知られている。その破骨細胞の場合,骨芽細胞が産生するRANKL (receptor activator nuclear factor-κB ligand)によって,破骨細胞側の受容体であるRANKを介して分化誘導されることが知られているが,破歯細胞の場合も同様のメカニズムで分化誘導されると考えられる。RANKからのシグナル伝達系の中で非常に重要なものとしてMAPK (mitogen activated protein kinase)があげられる。この研究の日的は,病理学的な歯根吸収の機序にMAPK (特にMEK/ERKとp38)が関与しているかどうかを調べることと,MAPK阻害剤を用いて病理学的な歯根吸収を制御することができるかどうかを調べることである。 本年度は先ず、In vitroでの歯根吸収モデル実験でのMAPK阻害剤とMAPK遺伝子導入矯正発現の影響をみた。抜去歯牙歯根切片および象牙切片上でM-CSF,RANKL存在下で培養した。この培養系にMAPK阻害剤(MEK/ERK阻害剤とP38阻害剤)を添加し,固定後TRAP染色を行い破歯細胞の形成を観察したところ,MEK/ERK阻害剤において破骨細胞形成の促進がみられ、また、p38阻害剤によって破骨細胞形成の抑制がみられた。続いて,P38,ERK,MEKの野生型,変異型(失活型と常時活性型)の遺伝子をベクターDNAに組込み大量調製し,培養破骨細胞前駆細胞にトランスフェクションし,破歯細胞の分化誘導をみた結果,予想に反し特に顕著な差異を認めなかった。
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