研究概要 |
本研究は抗菌ペプチドのカルプロテクチン(MRP8と14の複合体)を用いた歯周病の免疫療法への応用に関連する基礎研究である。口腔上皮細胞におけるカルプロテクチン発現への影響を検討するために,サイトカインや上皮細胞分化関連因子であるTNF-α,IL-1α,IL-1β,IL-6,TGF-β,vitamin D3,retinoic acidとhigh calcium,あるいは歯周病原細菌P.gingivalis由来LPS(P-LPS)を培養した口腔上皮細胞に添加し,RNAを回収後,カルプロテクチンの発現をNorthern blotによりRNAレベルで調べた。その結果,上皮細胞の分化促進が知られているTNF-α,IL-1αとhigh calciumではMRP8と14の両mRNAの促進が見られ,分化抑制を示すTGF-β,vitamin D3とretinoic acidについては発現抑制が認められた。また,炎症関連サイトカインのIL-1βやIL-6もMRP8と14のmRNA発現を促進したが,P-LPSについては単球と異なりその発現への影響は見られなかった。カルプロテクチンは口腔上皮において有棘細胞層のみに存在している。そこで,カルプロテクチンの発現と上皮細胞の分化との関連について蛋白レベルで検討を行うと,IL-1αとhigh calciumにより細胞中のカルプロテクチン量は増加し,TGF-βにより有意な減少が見られた。さらに,分化促進因子のIL-1αと抑制因子のretinoic acidを同時に作用させると,IL-1αは有棘細胞層のマーカー蛋白であるinvolucrinのmRNA発現を増加させ,retinoic acidとの併用によりこの増加の抑制が見られた。そしてこの2つの因子の作用はMRP8と14の発現についても同様に認められた。さらに,IL-1αにより転写因子であるC/EBPαのDNA結合活性の促進が認められた。これらの結果より,口腔上皮細胞におけるカルプロテクチンの発現は炎症関連因子ばかりでなく上皮細胞分化関連因子によっても調節が行われており,特にIL-1αの促進作用についてはその作用機構にC/EBPαの関与が示唆された。
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