研究概要 |
前年度までに,歯肉上皮細胞におけるカルプロテクチン発現が上皮細胞分化促進因子のIL-1αとカルシウムにより増加し,分化抑制因子のTGF-βとレチノイン酸により減少することを明らかとした。本年度は,カルシウムによるカルプロテクチンの促進作用についての転写調節機構を調べた。S100A8とS100A9の遺伝子のプロモーター領域を含む欠失変異株を作製し(-1500/+540A8,-1000/+430A9),細胞にトランスフェクションし,ルシフェラーゼアッセイを行った。この結果,S100A8のプロモーター領域の解析では-765/-722と-256/-111領域の欠失でルシフェラーゼ活性の減少が認められた。一方,S100A9のプロモーター領域の解析では-188/-53領域の欠失でルシフェラーゼ活性が減少した。転写因子DNA結合部位検索の結果,S100A8とS100A9の遺伝子のこれらの領域には転写因子C/EBPの結合部位が存在する。そこで,カルシウム処理細胞より核蛋白画分を抽出し,C/EBPのDNA結合についてゲルシフトアッセイを行った結果,カルシウム処理細胞においてC/EBP DNA結合活性の上昇が見られた。また,IL-1α処理によってもこの活性上昇が見られたが,カルプロテクチン発現を抑制したTGF-βではC/EBP結合活性は減少した。これらの結果より,歯肉上皮細胞におけるカルプロテクチン発現は転写因子C/EBPにより調節されることが明らかとなった。歯肉上皮細胞において,カルプロテクチンなどの抗菌ペプチドの発現調節機構を解明することは歯周病の免疫療法の開発に貢献すると考えられる。
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