研究概要 |
カルプロテクチン(S100A8/S100A9)は上皮細胞で産生される抗菌ペプチドであり,歯周病原菌の増殖や上皮への付着を抑制する。カルプロテクチンは歯周病の免疫において重要な働きをしていると考えられるが,その発現調節機構は不明である。本研究では,歯肉上皮細胞におけるカルプロテクチンの発現調節因子と調節機構について検討を行った。その結果,上皮細胞の分化を促進するIL-1αとカルシウムはS100A8とS100A9の遺伝子とカルプロテクチン蛋白の発現を有意に増加させた。一方,分化を抑制するTGF-βはこのペプチドの遺伝子と蛋白の発現を減少させた。さらに,IL-1α存在下で分化を抑制するレチノイン酸を作用させるとIL-1αによるS100A8/S100A9の遺伝子発現の促進作用は阻害された。さらにカルシウムによる促進作用について転写調節レベルで検討を行うためにS100A8Sと100A9の遺伝子のプロモーター領域を含む欠失変異株を作製し,ルシフェラーゼアッセイを行った。この結果,S100A8Sのプロモーター領域の解析では-765/-722と-256/-111領域の欠失でルシフェラーゼ活性の減少が認められ,S100A9の解析では-188/-53領域の欠失で活性減少が認められた。これらの領域には転写因子C/EBPの結合部位が存在し,IL-1αとカルシウムはDNA C/EBP結合活性を増加させた。これらの結果より,上皮細胞におけるカルプロテクチンの発現は上皮細胞分化調節因子により調節されており,その発現調節には転写因子C/EBPが関与していることが示唆された。歯肉上皮細胞のカルプロテクチン発現調節機構を解明することは抗菌ペプチドを用いた歯周病の免疫療法の開発に貢献すると考えられる。
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