われわれは、自己の血小板を濃縮した血漿をゲル化し、培養細胞の移送手段に使用するのと同時に血小板に多量に含まれる成長因子と培養骨芽細胞が複合体として骨基質を異所性に形成する能力を有するかどうかを評価した。多血小板血漿(Platelet-rich plasma : PRP)ゲルとMC3T3-E1細胞の複合体皮下移植は骨芽細胞への分化を促進し異所性骨形成を誘導することが判明した。PRPのゲル化は細胞移植を容易にし、移植後の細胞の分化促進、維持の環境を向上させるうえで骨再生に有用な移送手段であると考えられた。近年、顎顔面口腔領域で骨再生治療のため臨床応用されているが、PRP単独での骨再生効果は十分でないため骨移植材との併用が多い。そこでPRPと細胞の併用による有効な骨再生療法の開発を目的とした。 異所性骨形成能を評価するためにPRPゲルと骨芽細胞前駆細胞(MC3T3-E1)をSCIDマウスの背皮下に移植した。あらかじめCM-DiIで標識された細胞をSCIDマウスの背皮下に以下の(1)細胞、(2)PRPゲル、(3)細胞/PRPゲル複合体を皮下注射した。1ヶ月後屠殺し軟X線写真を撮影して確認された皮下部の石灰化組織を切除後、脱灰パラフィン切片を作製し組織学的観察を行い、また、オステオカルシン、1型コラーゲンの免疫組織学的観察を行った。 細胞/PRPゲル複合体の移植部位のみに石灰化組織の形成を認め、石灰化組織中には、あらかじめ標識された移植細胞が観察され、オステオカルシンを強発現していた。また、石灰化組織はtype 1 collagenを成分としていることが免疫組織化学的に判明した。そこで、PRPゲル内の骨芽細胞前駆細胞における細胞内シグナルを検討したところ、focal adhesion kinase(FAK)のリン酸化を介してオステオカルシンが発現していることが解明された。このことは、PRPゲルがフィブリンを形成することにより骨芽細胞内インテグリンシグナル伝達機構が働いたことが考えられた。 以上のことより、PRPは、ゲル化することによりFAKを介した細胞分化に寄与し、再生治療に有効であることが示唆された。
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