P.gingivalisには、41K線毛と67K線毛の2種類の線毛が存在し、それぞれの線毛の役割を明らかにするため、それぞれの線毛遺伝子についてDNAレベルで解析を進め、線毛タンパク質をコードする遺伝子断片を用いて線毛欠損変異株を作製した。感染症は、病原微生物の宿主細胞への付着が不可欠である。P.gingivalisの培養上皮細胞への付着性と細胞侵入性に関わる線毛の役割を明らかにする目的のため、線毛欠損株を作製した。上皮細胞への付着性および侵入性と歯槽骨吸収との関わりを明らかにするため、ラットを用いた感染実験を行った。 線毛欠損株は、各々の線毛遺伝子を不活化して、41K線毛を欠損させた菌株(MPG1)、67K線毛を欠損させた菌株(MPG67)、41K線毛と67K線毛の両方を欠損させた菌株(MPG4167)の3種類を作製した。 これらの菌株を用いて、ラット口腔内へ直接接種する歯周炎モデルにより、口腔内定着および歯槽骨吸収量について線毛欠損株と親株とを比較検討した。 歯周病の原因細菌であるP.gingivalisの41K線毛については、主に菌体の凝集に関わることが明らかになってきた。線毛欠損変異株を用いて、その結果、両線毛を欠損した菌株では、口腔内定着率が著しく減少し、一種類の線毛が欠損するだけでも親株に比較して、定着率が減少した。短い線毛を欠損させた変異株では、長い線毛により菌体の自己凝集性が増加し、大きな菌塊を形成することが電子顕微鏡観察により確認された。ラットを用いてP.gingivalis口腔内へ接種する実験的歯周炎実験から、ラットの歯槽骨吸収量は、細菌の口腔内への定着率に相関しており、線毛欠損株は親株の線毛保有株よりも減少した。口腔上皮の培養細胞を用いた付着実験でも線毛保有株に比較して、線毛欠損株は培養細胞への付着率が減少したことから、P.gingivalisの67K線毛は、口腔内定着因子として働き、歯肉溝内で定着・増殖して歯槽骨破壊に直接、間接的に関与している可能性が示唆された。
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