高齢化社会を迎える先進諸国において、歯の喪失はQOL (Quality of Life)を阻害する重要な問題であるが、残念ながら日本において現在80才の人の平均歯数は5本弱が現状である。中高年が歯を喪失する原因の一つに歯周疾患(歯槽膿漏)が上げられるが、これらに対する予防法、治療法は十分確立されておらず充分な効果を上げていない。生涯自分の歯で噛める人を増やすためには、より効果的な予防法、治療法の開発、普及が望まれている。近年、骨芽細胞自身が、破骨細胞形成抑制因子(Osteoprotegerin ; OPG)、破骨細胞分化促進因子(Osteoclast Differentiation Factor ; ODF)を分泌し破骨細胞形成を制御していることが明らかになった。最近私たちは、歯根膜細胞自身がOPGを発現し、破骨細胞の形成を抑制し歯周組織の機能維持に関与していることを示唆する知見を得た。しかしながらOPG遺伝子の研究は日が浅く、特に歯周組織局所におけるOPG産生細胞とその発現制御機構の詳細は不明である。 本研究では、エストロゲン作用の低下に伴う骨粗鬆症下の歯周組織におけるOPGの果たす役割を解明するため、ヒト歯根膜(PDL)細胞におけるOPGの発現に対するエストロゲンの効果について検討を行い以下の結果を得た。 1 エストラジオールは、PDL細胞に対してOPGの発現を用量依存性に誘導した。またその効果は、添加後12時間で最大を示した。PCR産物の塩基配列は、ヒトOPGの塩基配列と一致した。 2 PDL細胞に対するOPG発現誘導効果は、エストラジオールおよび合成エストラジオールであるエチニルエストラジオールで観察された。しかし男性ホルモンおよび卵胞ホルモンはOPG発現誘導効果を認めなかった。 3 エストラジオールで処置したPDL細胞の培養上清は、ODF添加により誘導されるRAW細胞の破骨細胞分化を部分的に抑制した。 以上の結果より、エストラジオールはPDL細胞においてエストラジオール受容体を介してOPG発現を制御していることが明らかとなった。従って、骨粗鬆症におけるエストロゲン作用の低下は、歯周組織においてもOPGの低下を誘発し、歯周疾患の憎悪要因になっている可能性が示唆された。
|