今年度は、ラット掌球部に褥瘡形成を行い、病変部の各種神経伝達物質含有神経線維の観察を行う予定であった。しかしながら、その前段階の正常ラット掌球部の各種神経伝達物質含有神経線維の観察が、まだ不十分な状況にあったため、そこから手掛けた。その結果、まず掌球部にある汗腺は、脂肪組織の中に埋もれるように存在することが分かった。それらの周辺に分布している神経線維は、TH、VIP、SP、CGRPおよびVAChT(ベジキュラー・アセチルコリン・トランスポーター)を含有していた。しかし、NOS、NPY陽性の神経線維は観察されなかった。観察された陽性線維の内、TH、VIP、CGRPおよびVAChT陽性線維はいずれも、汗腺周囲を取り巻くような神経終末を形成していた。一方、SP陽性線維は汗腺部に直接終末すると言うよりも、むしろ周囲の血管に多く終末している像が観察された。また、TH陽性線維の一部も周囲の血管に終末を形成していた。以上の結果は、ラット掌球部に存在する汗腺を支配する神経には2つの機能を持つものがある事を示唆している。一つは直接汗腺に分布し分泌の調節をするもの、もう一つは周辺の血管の血流量を調節し、汗の原料となる血管内の物質の量を調節するものである。 申請者は、以上の結果を日本解剖学会第63回中部支部学術集会で口演発表した。また、この研究に関連するミニレビューを「頚部交感神経の神経回路-頚部交感神経節の入出力を中心に-」と題して解剖学雑誌に掲載した。 褥瘡形成法に関しては現在、どの程度の圧力をかければ良いか検討中であり、一部組織片を採取し、まず病変部の経時的変化を観察中である。
|