インスリン依存型(I型)糖尿病患者で、総合病院の外来に通院中の癌、精神障害のない28〜32歳の成人期にある既婚女性3名を対象に、Time Trade-Off法と半構成的面接法を用いて、健康な生存期間との交換・非交換の選択過程に、どのような糖尿病スキーマがあるのかを問題として事例検討を行った。その結果、(1)3事例とも糖尿病と診断されたとき、初めて糖尿病の病態や治療法の食事・運動・薬物療法(内服・インスリン療法)などに関する糖尿病スキーマが形成されたこと、(2)糖尿病患者の健康な生存期間との交換を望む交換・非交換の選択過程に、糖尿病の発症年齢、闘病期間、食事・インスリン療法などによる社会的生活の制限や心理的拘束、ライフイベントなどにより形成される糖尿病スキーマが影響を与えていること、(3)健康な生存期間との交換を望む交換者の糖尿病スキーマは、社会的生活の制限、心理的拘束、ライフイベントなどに関して、交換を望まない非交換者よりも精緻化し、拡大させていること、(4)健康な生存期間との交換を望まない非交換者には、自己にとり価値のあるものが実現可能という明るい未来の予測に関するスキーマの形成が認められたこと、などが示された。このような結果から、糖尿病患者の健康な生存期間との交換・非交換の選択過程にスキーマの違いが影響を与えていることが示唆され、糖尿病の交換・非交換モデルが考えられた。今後は、男性患者やインスリン非依存型(II型)糖尿病患者についても、同じような糖尿病スキーマが存在するか否か検討する必要がある。
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