目的:通院中の糖尿病患者の健康状態評価に与える要因を検討した。対象:通院中の糖尿病患者197名と病気のない者84名である。方法:通院中の糖尿病患者197名にTime Trade-Off(TTO)法を施行し、TTO法による健康状態の評価により、高評価群(TTO値1.00)、中評価群(TTO値0.99-0.50)、低評価群(TTO値0.49-0.00)の3群に分けた。これら3群と病気のない者84名に日本語版SF-36質問紙を実施した。いずれも半構成的面接法によりおこなった。糖尿病患者の中評価群と低評価群は、現在の健康状態のまま今後も過ごすよりも余命は短くなるが健康な状態で過ごしたいとする者(交換者)である。高評価群は、現在の健康状態のまま今後も過ごしたいとする非交換者である。研究協力者に文書により同意を得た後、調査を行った。結果と考察:次のような結果が得られた。1)糖尿病患者の健康評価とSF-36の下位尺度との関係:(1)SF-36の身体機能、社会生活機能、日常生活役割機能(精神)、全体的健康感、心の健康、活力の平均得点は、糖尿病患者の高評価群よりも低評価群に有意に低かった。(2)SF-36の全体的健康感の平均得点は、無病気群よりも糖尿病患者の高評価群に有意に低かった。(3)SF-36の身体機能、社会生活機能、日常生活役割機能(精神)、日常生活役割機能(身体)、全体的健康感、心の健康、活力の平均得点は、無病気群よりも糖尿病患者の低評価群に有意に低かった。(4)日常生活役割機能(精神)と活力の平均得点は、無病気群よりも糖尿病患者の高評価群に有意に低かった。2)ロジスッティック回帰分析の結果:(1)非交換者の選択率を上昇させる要因は、SF-36の身体的健康領域の「身体機能」、精神的健康領域の「活力」、「糖尿病の3大合併症がない(眼障害、腎障害、神経障害)」であった。(2)交換者の選択率を上昇させる要因は、「病気悪化に起因する否定的な感情」、「食事療法に起因する否定的な感情」、「身体的自覚症状がある」であった。(3)年齢、性別、血糖値、罹患期間、治療法のタイプは、非交換者と交換者の選択率との関係が認められなかった。本研究により、慢性疾患である糖尿患者のケアにとり有効な知見が得られたと考えられる。今後の課題は、なぜ糖尿病患者の「日常生活役割機能(精神)」と「活力」の平均得点が病気のない者よりも高いこと、完全に治癒しない糖尿病であるにもかかわらず、197名の通院患者のうち115名が現在の糖尿病状態のまま生きることを選ぶのか検討することである。
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