本研究の目的は、地域における糖尿病患者のエンパワーメント測定尺度を開発するための基礎的研究として、糖尿病のコントロールに関わる能力は、糖尿病患者にどの様に意識されているかを質的に明らかにしようとしたものである。以下に主たる二つの研究の結果を示す。 1.基本健康診査における糖尿病有所見者の生活改善の意識に関する質的研究 基本健康診断で糖尿病の所見が疑われた者を対象に、主体的に生活習慣を改善する際に体験する心理的要因を明らかにした。その結果、【糖尿病の『怖さ』に関連する意識】、【行動管理の主体としての意識】、【生活改善の行動に関連する意識】、【糖尿病を管理する技能に関連する意識】、【情緒的フィルター】の5つのコアカテゴリーが抽出された。各カテゴリーの関係の構造は、【糖尿病の『怖さ』に関連する意識】、【行動管理の主体としての意識】、【生活改善の行動に関連する意識】の順に生活改善に関わる意識は発展し、この意識の発展を促すものが、【糖尿病を管理する技能に関連する意識】であった。【情緒的フィルター】は、意識の発展過程の全ての過程に作用し、疾患への恐れや生活習慣を変更する負担感に対する防衛作用をもたらしていた。 2.糖尿病自主活動グループメンバーの生活改善の意識に関する質的研究 糖尿病について継続的に学習し、コントロールを行っている対象として、自主活動グループのメンバーにインタビューを行い、主体的な生活改着に関わる意識を質的に明らかにしようと試みた。その結果、糖尿病管理に関わる行動の原理として、【食べることの満足感を新しい満足感に置き換える】、【新たな生活の知恵や技術を身につける】というカテゴリーが抽出された。また、糖尿病のコントロールが続けられる背景として、メンバー間の【支え、支えられる他者との関係】、【お互いの気持ちがわかる関係】の存在が確認された。
|