研究概要 |
グループホームに入居する一人の認知症高齢者を対象とし,ビデオを用いた行動解析の手法を用いた長期継続観察によって,対象者の他者との社会的相互作用を中心とした行動を分析するとともに,対象者の感情行動の変化を追跡した。 観察対象者は,77歳の女性の痴呆性高齢者1名(以下Yさん)であり,NMスケールによる痴呆程度評価は重度痴呆,N-ADL得点は15点で,食事と排泄は部分介助であるが,移動はほぼ自立しており,要介護度は4であった。先の研究に引き続いた形で,平成13年から平成16年までの4年間に渡るデータを分析した。各年の7月から9月までの3カ月間,各月2日間をデータ収集にあて,各日午前7時30分から午後7時30までの12時間を2時間ごとの6つのブロックに区分し,各ブロックについて10分間ずつ,対象者をビデオを用いて撮影した。今回の分析には居間での休息中のデータのみを使用した。 対象者の4年間の行動変化を見ると,自立での姿勢変化や自発的な位置移動などは年を経る毎に減少する傾向が認められた。自発的に他者に視線を向けたり,他者の動きに定位するなどの行動も減少傾向にあった。また,他者からの関わりかけに対する反応性も,全体としては低下する傾向が認められた。しかし,施設職員などの他者と目を合わせたときの,挨拶反応としての眉上げ行動や笑顔による応答行動は変化しなかった。また,職員からの声かけや身体接触を受けた時の肯定的な表出行動の頻度にも,大きな変化は認められなかった。 対象者は,4年間にわたる加齢に伴う行動変化として,全体的な活動性を低下させ,位置移動や姿勢変化の頻度が低下する傾向が認められた。しかしその一方で,他者から関わりかけを受けたときの挨拶行動や笑顔による反応はほとんど変化せず,肯定的な感情表出行動そのものは消失しているとは言えなかった。
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