研究概要 |
グループホームに入居する認知症高齢者を対象とし,ビデオを用いた行動解析の手法を用いた長期継続観察によって,認知症高齢者の徘徊行動の詳細な分析を行うとともに,他者との社会的相互作用と対象者の感情行動の表出量の複数年に渡る変化を追跡した。 観察対象者は,長崎県島原市のグループホームに入居する複数の女性の痴呆性高齢者であり,認知症の程度評価はいずれも重度認知症であり,要介護度は3から4であった。データ収集を行った日の午前7時30分から午後7時30までの12時間を2時間ごとの6つのブロックに区分し,各ブロックについて10分間ずつ,対象者をビデオを用いて撮影し,居間での休息中のデータを使用して分析を行った。基本的行動量の変化と対人行動,感情表出行動については,それぞれの対象者について,3年以上の長期にわたるデータを分析した。 対象者の行動変化を見ると,自立での姿勢変化や自発的な位置移動などは年を経るごとに減少する傾向が認められた。さらに自発的に他者に視線を向けたり,他者の動きに定位するなどの行動も減少傾向にあった。また,他者からの関わりかけに対する反応性も,全体としては低下する傾向が認められた。しかし,施設職員などの他者と目を合わせたときの,挨拶反応としての眉上げ行動や笑顔による応答行動は変化しなかった。また,職員からの声かけや身体接触を受けた時の肯定的な感情表出行動の頻度にも,大きな変化は認められなかった。 認知症高齢者は,複数年にわたる加齢に伴う行動変化として,全体的な活動性を低下させ,位置移動や姿勢変化の頻度が低下する傾向が認められた。しかしその一方で,他者から関わりかけを受けたときの挨拶行動や笑顔による反応はほとんど変化せず,肯定的な感情表出行動そのものは消失しているとは言えなかった。このような結果をふまえ,いかなるかかわりかけを増やし,あるいは制限するかが今後の研究課題である。
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