研究概要 |
本研究は,介護老人保健施設を利用する高齢者が,自らのライフストーリーを他者に語ることを通してどのように自己を建て直していくのか,また残された人生にどのように意味づけをしていくのかを明らかにし,高齢者の生涯発達を支援する看護ケアプログラムとしての口述ライフストーリーアプローチの可能性と課題について検討することを目的としている.本年度は,高齢者とケアスタッフによる1対1ライフストーリー面談(1時間前後/回,1〜2回/週,計3〜5回)の事例を分析し,どのように相互作用が変化していくのかを検討した. 1.分析事例:日本語版E.H.エリクソン発達課題達成尺度による評価で面談後の得点が顕著に上昇したA氏(90歳,男性)とA氏の受け持ち介護士であるBさん(23歳,女性)による3回の面談内容を分析対象とした. 2.分析方法:双方の発話に注目して面談ごとに比較検討した上,各面談におけるやりとりの特徴を抽出した.また,3回の面談を通して話題の繰り返しがあるか,新しい話題があるか,1つの話題に内容の上で改訂があるか検討した. 3.結果:(1)やりとりの特徴;第1回面談では<Bさんの疑問形の多用とA氏の他人事様の応答>,第2回面談では<互いの言葉の繰り返し>,第3回面談では<Bさんの相づちの頻出とA氏の丁寧口調>が見出された. (2)話題の展開;第1回面談では(1)「きょうだい・父・孫と曾孫の経歴や仕事の業績」が中心であった.第2回面談では(1)の反復に加えて,(2)「私の娘」(3)「工場の経営」(4)「私と妻の旅行」(5)「私の病気」(6)「阪神大震災で退職」という新しい話題が「私」のストーリーとして表現された.第3回面談では(1)の反復と,改訂(3)「工場の経営・人出不足」,新しい話題として(7)「偶然被爆しなかった」話があり,A氏の感情も表現されていた.やりとりの進展と同時にストーリー内容の広さと深さが増すことが示唆される.
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