本研究では、初発の統合失調症患者が早期退院した後の再発を防止するためには、彼らの自我強化が必要であるという仮説に基づき、看護面接という方法による実証的研究を行ってきた。看護面接では、患者の生き難さに焦点を当てそれが生活にどのような困難をもたらしているのか、一緒に考えるという方法をとってきた。面接終了後には、その経過をすべて逐語録に残した。また自我強化のレベルを見るためにMMPIのEgo Strengthを尺度として使用した。最終年度である平成17年度は、おおよそ12月までに合計4名の面接を実施した。しかし、1名については、初発とはいえ、受診前に10年間の自宅療養という体験があり、やはり初発の統合失調症とは言えないという判断の元にデータとしては使用しないこととした。3名中1名が、35回の面接の後(面接開始後1年半)で再発してしまった。もう1名は52回の面接で、現在寛解状態で経過中である。最後の1名は15回の面接でほぼ完全寛解といってよい程度にまで回復し、社会復帰している。 分析は3名の面接の逐語録によるデータを、患者の生き難さとはどのようなことでそれによって彼らの生活がどのような影響を受けているのか、また面接する看護師は具体的にどのような方法を駆使しているのかという二つの観点から質的に分析した。また、自我レベルの変化をEgo Strength得点で量的にもみた。結果として、患者の生き難さは、統合失調症という病気の本態にかかわる思考力や文脈理解力の低下、自我境界の曖昧さが基底にあり、それらが回復していく過程で周囲の人々との関係性について悩み葛藤してしまうところにあった。一方看護師の面接方法では、かなり意識的な専門的な技法が使用されていた。特徴として、面接者が患者の鏡として機能していることや、面接の展開方法は患者との心理的な距離を徐々に縮めていくような順序性を備えていることが明らかになった。
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