研究概要 |
施設で生活する痴呆高齢者は,生活活動性の低下や低照度環境によって,睡眠・覚醒リズムの同調因子の減弱を生じやすいことが指摘されている。そこで平成15年度は,病院に入院している痴呆高齢者の睡眠・覚醒リズムと施設の照度環境を調査した。 対象は、長期療養型医療施設に入院し痴呆と診断されている高齢者20人(男性3人,女性17人,年齢86.7±6.4歳)で、NMスケールでの痴呆の重症度では中等症7人,重症13人であった。痴呆高齢者の睡眠・覚醒リズムを知るために,連続する3日間30分毎に行動的睡眠を観察した。同時に居場所の照度測定を1時間毎に行なった。病棟の照度特性を知るために,照度センサー(T&D社製)を用いて快晴の日の病棟内の各病床,パブリックスペースであるデイルーム,ナースステーション付近を1時間毎に測定した。調査は平成15年12月中旬に行なった。 病棟は廊下をはさんで南東側と北西側に配置されており,パブリックスペースは北西側にあった。各場所の最高照度時刻はほぼ午前7-11時だった。南東側病床は概ね2,500luxを超えたが,北西側病床は1,000lux未満で,有意な差はないものの南北の病床照度に違いがあった。南東側でも2,500luxを超えなかった廊下側病床では,窓側の照度と有意な差が認められた。パブリックスペースは,一日を通して2,000lux未満だった。睡眠状態が良好な者は9人で,他の11人には夜間長時間の中途覚醒や頻回覚醒,日中の長時間の睡眠が見られた。睡眠状態に関わらず,一日の5割以上臥床して過ごす者が大半を占めていた。対象の照度が最大になる時刻の行動的睡眠をみると,睡眠状態が良好な者は82%覚醒しているのに対して,睡眠状態が不良なものは55%しか覚醒していなかった。対象の居場所は,移動能力に関わらず病床,デイルームとナースステーション付近の2-3か所に限られていた。 以上のことから,(1)一日の5割以上病床にいる対象が大半であり,特に北西側に病床がある場合は低照度になりやすい,(2)病床から移動してもパブリックスペースが低照度である,(3)最大照度時刻に睡眠していることで,採光を睡眠・覚醒リズムの同調因子としてうまく用いていないことが考えられる。なお,詳細な分析については今度早急に取りかかる予定である。
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