水道水中に生じる「トリハロメタン」は、水中フミン物質を起源として水道水の前塩素処理や塩素殺菌によって生成するとされている。しかし、天然水中に存在する「フミン物質」は、生体成分とその分解成分から化学的、生物学的に合成された「難分解性有機物」である。また、天然水中にはフミン物質以外に多量の非フミン物質が共存しており、極めて多様な低分子有機物の混合物である。天然水の塩素処理によって生成するトリハロメタンは、難分解性有機物であるフミン物質ではなく、易分解性の非フミン物質から生成すると考えた方が妥当である。本研究は天然水から分離精製したフミン物質を純水に溶解し、もとの天然水とトリハロメタン生成能を比較して寄与率を求め、トリハロメタンの前駆物質が非フミン物質であることを実証する。 琵琶湖北湖の湖水と北海道別寒辺牛川の河川水から、DAX-8樹脂を用いる濃縮精製システムで水中フミン物質を濃縮しフルボ酸とフミン酸を分離精製した。フルボ酸を純水に溶解して原水と同じ濃度にした試水と原水を、トリハロメタン生成能の測定条件で塩素処理し、ヘッドスペース法でGCMSを用いてトリハロメタン濃度を定量した。 琵琶湖水206トンからフルボ酸22g、別寒辺牛川水120Lからフルボ酸250mgを得た。水中フミン物質の大部分はフルボ酸であった。各試水から生成したトリハロメタンの大部分はクロロホルムであった。別寒辺牛川水のトリハロメタン生成能は琵琶湖水の約7倍であった。原水とフルボ酸のトリハロメタン生成能を比較した結果、別寒辺牛川水ではフルボ酸の寄与率は約35%であった。別寒辺牛川は湿原に流れておリフルボ酸は溶存有機物の約70%をしめる。したがって、トリハロメタンの主要な前駆物質はフミン物質ではなく、非フミン物質であると考えられる。
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