水道水中に生じる「トリハロメタン」は、水中フミン物質を起源として水道水の前塩素処理や塩素殺菌によって生成するとされている。しかし、天然水中に存在する「フミン物質」は、生体成分とその分解成分から化学的、生物学的に合成された「難分解性有機物」である。また、天然水中にはフミン物質以外に多量の非フミン物質が共存しており、極めて多様な低分子有機物の混合物である。天然水の塩素処理によって生成するトリハロメタンは、難分解性有機物であるフミン物質ではなく、易分解性の非フミン物質から生成すると考えた方が妥当である。本研究は天然水から分離したフミン物質と、もとの天然水についてトリハロメタン生成能を比較して、トリハロメタンの前駆物質が非フミン物質であることを実証する。 淀川水系の4河川(木津川、宇治川、桂川、淀川)の環境基準点において経時的に採水を行い、非イオン性樹脂DAX-8を用いる分画法で、疎水性酸(フミン物質)画分、疎水性中性画分、親水性画分に分離した。各画分と原水を、トリハロメタン生成能の測定条件で塩素処理し、ヘッドスペース法でGCMSを用いてトリハロメタン濃度を定量した。 水中フミン物質の大部分はフルボ酸であった。各試水から生成したトリハロメタンの大部分はクロロホルムであった。淀川水系河川のクロロホルム生成能は13〜22μg/Lであった。原水とフルボ酸のクロロホルム生成能を比較した結果、フルボ酸の寄与率は15〜24%であった。フルボ酸は溶存有機物の13〜28%をしめることからフルボ酸からの寄与が選択的に高いとはいえない。しかし、クロロホルム生成能の大部分はフルボ酸以外の画分に起因しており、トリハロメタンの主要な前駆物質はフミン物質ではなく、非フミン物質であることが実証された。
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