研究概要 |
私共は、核基質足場蛋白質の機能について分子レベルでの情報を得たいと考え、ラット細胞核の核骨格画分から、MAR/SARとの結合を指標にP130/MAT3の機能解析を行ってきた。すでに、MAR/SARと結合するP130/MAT3を精製・単離し、抗P130/MAT3抗体を作製し、P130/MAT3 cDNAをクローン化した。これらを研究手段としてP130/MAT3の性質を調査して以下の多くの知見を得た。【1】P130/MAT3は、種々の動植物から得られた数種類のMAR/SARと結合し、その結合はDNAのメチル化によって阻害された。【2】P130/MAT3 cDNA の塩基配列は、機能が未知のmatrin 3のcDNAのそれとほぼ一致した。【3】P130/MAT3にはzinc finger motif(ZF-1/2)とRNA binding domainがそれぞれ2ヶ所配置され,nuclear localization signal(NLS),nuclear export signal(NES), membrane retention signalに加え、数ヶ所のリン酸化部位モチーフを持つ845アミノ酸から成る約99kDa のポリペプチドであった。【4】P130/MAT3には、リン酸化状態の異なる2種類のisoformが存在した。また、DNAとの結合親和性はリン酸化によって調節されていた。【5】P130/MAT3は細胞核に局在し染色体と挙動を共にしたが、ZF-1/2を同時に欠いた変異体でこの動態は消失した。また、核局在性はNLS除去により認められなくなり、また細胞質への移行はNES除去により消失した。【6】in vitro合成したP130/MAT3を用いてDNA,RNAとの結合が確認され、それぞれに関与する分子内ドメインを明らかにした。【7】in vitroおよびin vivo実験系でP130/MAT3は転写を活性化したが、その活性化にはP130/MAT3とMAR/SARとの相互作用が必要であった。これらの結果から、核骨格構成蛋白質であるP130/MAT3は、MAR/SARとの結合を通して転写を活性化する機能蛋白質であると考えられた。現在までにP130/MAT3の多くの生化学的性質は、in vitro実験により明らかとなっている。 一方、核基質足場蛋白質の細胞内での機能を証明するためには、これら蛋白質と相互作用するゲノム上のMAR/SAR領域を遺伝子ごとに解明する必要がある。ヒトのゲノム配列情報を利用して、バイオインフォマティックスに基づいた解析法に従って、原則としてすべての遺伝子のMAR/SAR領域を推定しゲノム上での分布地図を作成することを目的として研究を実施してきた。我々はこれまでに、薬物代謝、薬物排泄ポンプの機能に関与する約30種類の遺伝子について、MAR/SAR領域を決定しヒトゲノム上の分布図を作成した。その結果、この推定プログラムは、非常に高い精度でMAR/SAR領域を推定することが可能であり、すべての推定領域が本来のMAR/SARの特徴を示すことを明らかにした。我々のこれまでに得られた結果を踏まえて、平成18年度以降に核基質足場タンパク質P130/MAT3が転写因子NF-κBと相互作用するとの知見を用いて、この転写因子が関与する遺伝子群に絞ることにして研究を継続することにした。
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