多細胞生物の発生過程においては、時期および組織特異的な細胞死メカニズムが働いて多くの細胞が除去される。近年、ショウジョウバエから哺乳類まで保存された細胞死機構の研究が盛んに行われている。なかでも昆虫ウイルスのアポトーシス阻害タンパク質として見つかってきたRINGフィンガーモチーフを有するIAP(Inhibitor of Apoptosis)ファミリー分子が注目を浴びている。哺乳類のみならずショウジョウバエにもDrosophila IAP(Diap1)が存在し、ユビキチン-プロテアソーム系を介したIAP分解系による共通の細胞死機構が存在する。そこで、in vivoでのDiap1分解系に関わる遺伝子のassay系構築をめざし、以下の方法を検討した。改変GFPとDiap1を融合させた遺伝子をUAS(酵母の転写因子の結合領域)を含むプロモーターの下流につないだ系統とGal4エンハンサートラップ系統(キノコ体と唾液腺で発現誘導可能)を掛け合わせた。そして、その子孫の幼虫唾液腺でDiap1可視化できる系を作成した。さらに、そのDiap1可視化系統に未知のUAS系統を掛け合わせ、唾液腺で未知の遺伝子とGFP-Diap1を共発現させた。以上の系で、生きた幼虫唾腺でその蛍光量を減衰させる原因遺伝子の探索を検討した。用いたUAS-ハエはGS系統(東京都立大作成)で、複眼でrough eye表現型を示した約100系統を用いた。2次スクリーニングとしてショウジョウバエキノマ体における強制発現時の表現型も観察した。結果としてDiap1消失が細胞死に至る否か検討が必要であったが、7つの遺伝が候補として上げられた。本システムによりDiap1分解後の細胞死機構の分子遺伝学的基盤解析が可能になると考えられた。さらに広範なスクリーニングを行えば、今後の研究に重要な知見をもたらすと考えられた。
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