本研究において、"表現と他者"というテーマに基づき、従来の表現者と鑑賞者という一方向から、相関的関係を実現させるための一方法としてこの装置を開発し活用した。カメラ・オブスクラの機構を有したリアルタイムに外界を映し出す自然光とレンズによる始原的映像の可能性を活用した高精細多方位カメラとして、新たな表現活動を実践した。 平成15年度から16年度にかけて、カメラの構造を持った、鑑賞者が体験できる空間としての作品を、宇部と広島そして長崎の3ヶ所に制作した。現代に蘇った巨大なカメラ・オブスクラは、複数のレンズの使用によって、これまでにない新鮮な視覚を提供し、さらには固有の歴史を思考させる空間となった。そして、さらに鑑賞者がカメラごと移動しながら体験できるカメラ・オブスクラ・バスに発展し、秋田と東京で実践した。 さらには、撮影用として360度撮影用ピンホールカメラの製作を行った。新たな視覚体験とともに、その視覚の記録のためにカメラを制作した。ピンホールカメラはパンフォーカスであるために、手前から奥まで焦点調節の必要がない。その効果を使い、24個のピンホールカメラを球体状に接合した4×5フィルムを使用するカメラを制作し、撮影した。平面上に展開する展示と、8角柱を制作し鑑賞者がその内部に入って鑑賞できる、インスタレーション展示も行った。また、1枚の画面に複数の穴からの露光によって、空間的、時間的なズレをもった作品も別シリーズとしてまとめた。 光の結像現象という、根源的な原理を使って、カメラそのものを作品空間として体験できる装置としての工夫を、さまざまな形で行った。さらには、移動する空間として制作し、視覚体験の可能性を追求した。体験装置とともに、撮影装置も工夫し、今日的表現活動に応用した。
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