研究課題
基盤研究(C)
我が国の伝統芸能では、明治以来の西洋音楽が一般化された現在においても、それぞれの芸能には独自の楽譜が使用されて、リズムと旋律を「ことば」と「からだ」で記憶している。伝統芸能においては、まず、独自の「ことば」と「口唱歌(くちしょうが)」があり、演じる「からだ」と一体となって認知されつつ伝承されるのである。本研究では、「ことば」と「からだ」の伝承形態の普遍性について、大衆的な我が国の伝統楽器「和太鼓」を用いて音楽理解との関係を実験的に明らかにしようとした。「ことば」と「からだ」で学習する場合に、習得度の向上と演奏時の心拍数が音楽理解とどのように関係しているか、演奏者に心拍測定器を装置してもらって測定した。課題曲Aは、熟達者と初心者の学習時から本番までの心拍数の変移を記録した。その後、課題曲Bでは課題曲Aと同様に素人で経験数の差のある奏者の学習時を心拍測定器で計った。課題曲Bでは、演奏した音楽の聴取時に脳波測定を行って記録した。同時に、課題曲Bの編曲を聴取してもらい、二通りの音楽認知を調べ、あわせて、課題曲を全く練習していない人の聴取時の脳波を測定した。心拍については、課題曲Aでは熟達者と初心者の学習過程による心拍数の変移を追うことで、熟達者の心拍数が初心者の心拍数へ合わす傾向が見られて、最終的にほぼ一致した。課題曲Bにおいては、演奏経験年数の違う被験者の心拍数の差は縮まったが、課題曲Aのようにほぼ一致することはなかった。このことから、和太鼓音楽の演奏レベル向上は、「ことば」と「からだ」で学習する過程で進み、合奏としての音楽のまとまりが合奏としての完成度へ近づくことが明らかになった。音楽理解と心拍との関係が示唆された。脳波については、課題曲Bの聴取時の分析には熟達者と太鼓未経験の被験者を加えた。その結果、アルファ波とベータ波、交感神経と副交感神経については、演奏経験の差異と経験の有無での検討は、千差万別で明確な差異は見られなかった。しかし、和太鼓という楽器の特性であろうと推測できる聴取時のリラックス状態は高い傾向が認められた。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
三重大学教育学部研究紀要 56
ページ: 271-278
Bulletin of the Faculty of Education, Mie University Volume 56