研究課題
基盤研究(C)
当研究では、旅回りの新派・剣劇役者、筒井徳二郎(1881〜1953)の国内活動と海外巡業(1930〜31)について、日欧の主要図書館・資料館で、これまでの資料調査を継続実施しながら、特にその海外公演を評価した日欧演劇人の姿勢を、演劇改革の視点から比較考察した。その結果は以下の通りである。筒井は海外巡業で、剣劇や歌舞伎を西洋人のために分かりやすく書き改め、身体表現と多様な舞台表象を使って、レビュー化して公演したところ、コポー、デュラン、ピスカートア、ブレヒト、メイエルホリド等、西洋の指導的な前衛演劇人は、この大衆演劇に演劇の原点を志向する普遍的な演劇芸術の実例と、改革のための新たな手掛かりを見出したようだ。一方、宝塚歌劇の坪内士行等はその頃、多様な舞台表象を組み合わせて、江戸歌舞伎に代わる新しい国民劇(歌舞伎レビュー)の創成を模索していたが、坪内の助言もあって海外で成功した筒井の公演方法を、この新国民劇の創成に有益な示唆を与えるものと評価した。その他、宝塚の渡米計画、筒井の帰朝記念公演、坪内等による国民劇の試作等、当時、筒井と宝塚の間に連動した関係が認められる。このように筒井の海外巡業を介して東西演劇の架け橋が築かれたが、その西端に世界の演劇をリードする当時の前衛演劇が、その東端にはそれを模範に運動を展開していた新劇人の演劇ではなく、商業劇団による大衆演劇の実験的試みが連なっており、ねじれた演劇交流の構図が露になる。だが、この一見掛け離れた立場にある日欧演劇人の姿勢に、ある種の共通点、見世物的な民衆文化のエネルギーを求める傾向が見えてくる。筒井が70数年前に海外巡業を通じて投げかけた問題は、ある意味で未解決のままであり、日本の近代演劇史を見直す一つの材料となるかもしれない。なお、今回の海外調査で、ポーランド、ユーゴスラビア等の東欧・バルカン諸国の調査がはかどり、過去に調査済みのものを合わせると、筒井一座海外巡業22ヵ国70余ヵ所のうち、合計21ヵ国56ヵ所、20言語に及ぶ公演資料が入手できたことになる。
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