密度汎関数法を発展させた空間分割法(PRDF)と時間依存法(TDDFT)を用いて得られた研究成果の概要を述べる。 1.「PRDF法によるナノスケール構造の静電容量の電子状態起源」 (1)有機分子、フラーレン、カーボンナノチューブ、ジェリウム球、それぞれからなる対向電極の静電容量の計算を行った。電極の大きさと電極間距離がともに〜1nmのとき静電容量の値は、原子構造に多少依存はするが〜10^<-20>Fのオーダーであることがわかった。また、シクロペンテン分子とカーボンナノチューブの静電容量の実験値を今回の計算はほぼ再現することができた。 (2)炭素1次元鎖C_n、炭素クラスター内包C_<60>、ジェリウム球の自己容量(孤立電極の静電容量)と電子状態との相関を明らかにした。炭素1次元鎖C_nの自己容量は炭素原子数nの偶奇の違いで大きく変化するという、ナノ構造に特有な量子効果が静電容量に現れることがわかった。 2.「TDDFT法による炭素構造の電界放射機構と光学吸収スペクトルの計算」 (1)ダイヤモンド表面からの電界電子放射機構を明らかにする目的で、(a)清浄、(b)水素終端、(c)表面水素複合欠陥を有するそれぞれのダイヤモンド表面からの電界放射電流を計算し、実験との比較検討を行った。表面終端水素原子はイオン化エネルギーを下げることで、また水素複合欠陥はバンドギャップ中に不純物準位をつくることによって、放射電流を著しく増加させることがわかった。本計算によって、実験結果の理論的裏付けがなされたと同時に、ダイヤモンド表面からの電界電子放射機構を電子状態から明らかにした。 (2)有限幅のグラファイトリボンに外部電界を印加すると、電界方向によらずリボン端に存在するダングリングボンド(DB)状態から電子放射されること、π軌道の電子放射への寄与は小さいことが解った。また、グラファイトシートに原子空孔欠陥が導入されると周辺にDBが生成されるため、電子放射密度が約20倍に増大した。対照的に、カーボンナノノチューブのSW欠陥からの電子放射は小さいことが解った。これは、SW欠陥導入によって欠陥周辺部が凹状に構造変形することが理由であることが解った。 (3)実時間TDDFT法と線形応答理論を利用した周波数TDDFTの両手法を使って、ベンゼンからペンタセンまでの芳香族分子の光学吸収スペクトルを計算し、通常のDFTでは得られない実験との良い一致を得、吸収スペクトルに現れた2つの特徴的なピークの原因を、励起電子状態の電子密度分布から明らかにすることができた。
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