固相合成はポリスチレン樹脂に基質を担持し、数段階の有機反応を行ったのちに固相担体から生成物を切り出し、目的化合物を得る新しい合成手法である。固相合成は反応操作が簡便になる反面、反応性の低下や生成物の同定の難しさなどの問題点がある。本研究では、金属微粒子の表面にチオールを介して生成する自己組織化単分子膜(SAM)の表面が均一に並んでいることに着目し、金微粒子を固相反応場とするペプチド合成について検討した。 ω-undecylenylalcoholを出発原料に用い、末端に種々のFmocアミノ酸をもつアルカンチオールを合成した。アルカンチオール存在下、四塩化金酸を還元処理することによりアミノ酸担持金微粒子を調整し、Fmoc基の脱保護によりその担持量が約1mmol/gであることを明らかにした。これは従来のポリスチレン樹脂に匹敵する担持量であり、金微粒子が固相反応場として有用であることを示している。また、疎水性アミノ酸であるアラニン、バリン、フェニルアラニンなどを担持させた金微粒子に対して種々のFmocアミノ酸との縮合反応を検討し、溶媒に分散する金微粒子の固相反応が液相反応と同等の反応性を持つことを明らかにした。一方、溶媒に分散しなかったアラニン担持金微粒子に対して縮合反応を行ったところ、反応速度は低下するが、中程度の収率で縮合反応が進行することがわかった。さらに、金微粒子上での固相反応では、NMRやIRといった一般的な測定法を用いて、反応のモニタリングができることも明らかにした。この金微粒子が持つ高い反応性や反応モニタリングの容易さは、従来の固相合成法にはなかった特徴であり、金微粒子が固相ペプチド合成の反応場として優れていることを実証した。
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