ES細胞は全能性を有することから再生医療の材料として注目されている。我々は内胚葉由来細胞をES細胞から分化する方法について検討を重ねている。転写因子遺伝子発現が細胞の分化に必須であることが知られている。そこで、転写因子遺伝子をES細胞に導入することによって分化誘導する手法を用いた。 Sox17は肝臓の発生に重要な転写因子である。Sox17をES細胞に導入したところ、内胚葉関連遺伝子の発現を認め、dexamethasone添加培養によりアルブミン遺伝子発現を認めた。このES細胞に成熟肝細胞のマーカーであるSAP(serum amyloid protein)プロモーター下にEGFPを発現するDNAを組み込み、脾臓から門脈を介して肝臓に導入したところ、肝臓でsox17遺伝子導入ES細胞は蛍光を発するようになり、肝臓細胞分化が進んだと考えられた。 さらに、より詳細にsox17遺伝子の分化に対する影響を検討する目的で、我々はROSA26 locusにtetracycline感受性遺伝子発現ユニットを組み込むことにより、細胞分化後も安定した外来遺伝子発現が可能なES細胞を作成した。この細胞を用いsox17遺伝子の初期分化の検討したところ、高密度培養によるwnt signalの低下がsox17遺伝子の内胚葉分化促進に必須であることが明らかになった。 また、同様の方法を膵発生に重要であるpdx1遺伝子についてもおこない、pdx1遺伝子の持続発現によりES細胞から高効率にインスリン産生細胞を分化誘導できることが明らかになった。この細胞は継代維持が可能であり、将来の糖尿病の再生医療にも貢献できるものと考えている。
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