我々は心筋ホメオボックス転写因子であるNkx2.5遺伝子にEGFPをノックインしたES細胞株を樹立し、それを分化させて、セルソーターによって心筋細胞を単離する系を構築してきた。これによって回収した細胞は心室筋・心房筋・刺激伝導系のタイプの細胞に分化しうる心節前駆細胞の集団であること、およびその細胞構成もレチノイン酸の濃度によって制御しうることを明らかにした。しかしながら、この系によって得られる細胞数は再生医療を目指した細胞移植に使えるほど十分なものではなく、レポーターであるGFPの発現レベルの上昇、回収法、分化誘導法等に改善の余地があると考えられた。そこで、本年度は分化誘導法を改善するため、心筋細胞で発現するErbBとそのリガンドであるneuregulinに着目し、以下のようにES細胞における発現解析および機能解析を行った。 (1)ES細胞の心筋分化誘導におけるErbB遺伝子ファミリーの発現解析:ErbB遺伝子ファミリーのうち、ErbB4が心筋の分化マーカーの発現に伴って上昇することを明らかにした。また、GFPを指標に単離した心筋細胞にはErbB4が特異的に発現していることを明らかにした。 (2)分化誘導におけるNeuregulin添加実験:胚葉体培養中にNeuregulinを添加したところ、GFP陽性細胞が約1.5倍に上昇することを見出した。しかしながら単離したGFP陽性細胞に対しては、Neuregulinの細胞増殖促進活性は検出できなかった。 (3)分化誘導時におけるErbBインヒビター添加実験:胚葉体培養時に2種類のErbBインヒビターを添加したところ、GFP陽性細胞が激減し、自動拍動する胚葉体の割合も減ることを見出した。インヒビター処理した胚葉体の凍結切片を作成しTUNEL染色を行ったところ、心筋細胞でのアポトーシスが観察された。 以上のことから、ES細胞の心筋分化誘導とその生存にErbB-Neuregulinシグナリングが重要な役割を果たしていることが示唆された。
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