自然言語の文法を用いた音楽の構造分析について本年は以下のように研究を行った。 ・まずこの分野の先駆的な教科書であるGTTM (Generative Theory of Tonal Music)は刊行されて既に20年が経過するが、いまだその実装はできていない。それはこの手法で用いられる構造分析規則が極めて抽象的に述べられていることと、規則間のコンフリクトが問題になっているためである。本年は、この規則間に重みを付与するパラメータを設置することにより、この問題を一部解決した。すなわち、楽譜のサンプル100曲を用意し、それらに対して楽理の専門家の手で解析例を作成してもらった後、計算機上に実装した解析システムで、このパラメータをチューンすることで、解析例にどこまで近づけるかを評価した。これによりGTTMのグルーピンク規則と呼ばれるものに対しては自動化することを確認した。この成果2004年度中に国際会議で報告予定である。 ・音楽の構造解析のもう一つの課題として、和声解析がある。従来的なカデンツ解析については、規則に例外が多く、その規則は冗長になる。本研究では最初から素性構造を組み込んだ文法を用いることにより、この記述性を高める試みを始めた。現在、古典派のピアノ曲を対象に与えられた和音列からカデンツの連鎖を認識する文法を開発中である。この成果は2004年度中に論文誌に報告できる予定である。
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