研究概要 |
本研究の目的は,それ自身はありふれた立体のように見える展示物が,棒を貫通させたり,液体を流したりなどの物理的な動きを加えることによって,見る人にあたかもあり得ないことが起こっているという印象を与える新しいタイプの錯視を解明することである.この目的のために,本年度はまず新イリュージョン立体を数理的に特徴づけた.そのような立体を作ることのできる基本的原理は,絵の中で3組の平行線だけが使われた立体の投影図は,人間にとって,面を直角に接続して構成された立体の印象を与えるが,実際には,面を直角以外の角度で接続しても作れるという自由度を利用して,印象とは異なる立体を作れることである,したがって3組の平行線のみからなる立体の投影図から,その投影図をもつ立体を復元する際の自由度を利用して,斜面の傾斜を逆転させるかあるいは立体の凹凸を逆転させることによって,上述のあり得ない現象が起こっている印象を与えることのできる立体形状を,線形方程式・不等式系の解として規定できた.そして,この解集合の中から立体サンプルを選択することによって,そのようなイリュージョン立体を具体的に設計できることを確認した.次に,この設計法に基づいてイリュージョン立体を実際にいくつか設計し,試作した.そして,それを特定の視点から見たとき,イリュージョンが生じることを観測することができた.このように,イリュージョンをもたらす立体集合を,線形制約を満たす解集合として特徴づけることができ,新イリュージョン立体を設計するための汎用的方法を確立することによって,本年度の研究目標を達成することができた.
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