研究概要 |
脳では多くのニューロンが乱雑(カオス的)に活動することで自身がノイズを発生させている.脳内情報処理はこれらノイズの中で行われることから,脳は内部ノイズを有効的に利用していると考えられる.これらの事実から現象論的に非線形振動子にノイズの効果を加えた確率共鳴現象を基礎に考察することが,より現実的で明快に理解できると考えられる。実験の基本的方法としては、次のように行った。周期信号と雑音を最初から重畳して光刺激として付加すると、一般の感覚器と同様に視覚(眼)で確率共鳴現象を引き起こす。そこで、本研究ではこれを避けて視交叉以降の脳情報処理系でこの両者を混合させるために、片目に周期信号、もう一方の目に雑音光を付加し脳内で確率共鳴(同期)現象を起こさせている。本年度は、観測された確率同期現象が脳のどこで起こっているか、その場所の特定を中心に行った。従来まで、10chの電極のうち後頭部の脳波O_2-O_1での確率同期を中心に研究を行ってきたが、今回、前頭部から後頭部にかけて4部位の脳波を同時測定し,各部位の確率同期現象を観測した。その結果、確率同期現象が現在の光強度では、第1視覚野以外では観測されないことが明らかとなった。信号と雑音が最初に混合されるのは外側膝状体であり、そこから多くの領野に投射されている。従って、そこで確率同期が起これば、全ての部位で確率同期現象が観測されるはずであるが、そうではないことが判明した。これは外側膝状体のしきい値が高いために確率同期現象が起こらなかったものと判断できる。 これらの成果をもとに、次年度には視覚入力感覚器(網)と脳内部、第1視覚野での確率同期との違いを明確にするとともに、雑音の種類による同期特性の依存性を研究する。依存性が見られれば同一部位が脳内カオスの種類によって異なった情報処理機能を行う可能性が考えられ、重要な問題といえる。その結果を利用して脳波の周波数-空間相関図の作成と引き込みの過渡ダイナミックスを調べ、部位の微細構造ならびに認知や認識など脳の高次機能を研究する計画である。
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