研究概要 |
本研究は,人間の持っている記憶機能をその進化という側面から明らかにしようとするものである.理論的にはTulving (2001)のSPIモデル(Serial Parallel Independent model)を基礎として,方法論的には潜在記憶および処理の自動性に関する実験的手法を用い,個体発生および系統発生的側面から記憶の発生と進化の問題を明らかにしようとするものである. 本年度は,特に処理の自動性に関して,注意の機能に焦点を当てた研究を行った.人の視覚認知においては,線分検出や形態の処理といった情報は初期段階で処理され,意味処理は高次処理として時間的に後期に処理されると考えられている.しかし近年のLi, VanRullen, Koch, & Peronaは自然画像の処理が先行するというこれまでの理論に反する主張を行っている.我々は,そのような現象が確かに生じるかどうかを,より被験者の注意を統制する形でnegative primingという手法を用いて行った.その結果,注意を向けられていない周辺視野に提示される自然画像が,次の試行に提示される刺激の処理(意味的判断)には与える影響はみられたが,文字刺激の場合にはその影響はみられなかった.つまり,自然画像は注意を向けられていなくても,また文字の処理ができないような状況においても,高次な意味的処理が行われていることを示してる.この結果は,人が自然な画像の処理に優れているということを示しており,何らかの進化の産物ではないかということが考えられた. また,より高次の認知機能の一つに抑制機能があるが,抑制が他の関連刺激の検索によって生じるという検索誘導性忘却の機能についての検討を行った.
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