研究概要 |
Smith教授のグループは英語話者の幼児は,新規物体に対する命名を行う際に,既知の物体の固体性により重きを置いた命名をする傾向があること,一方,日本語話者の幼児は,既知の物体の生物性により重きを置いた命名をする傾向があることを報告している。この結果に対する1つの解釈は,英語においては,その文法構造の中に加算/不可算名詞の区別のように,物体の固体性と高く相関する区別があり,日本語では,動詞「ある」,「いる」の区別のように物体の生物性と高く相関する区別があることである.このことは言語構造と物体概念の学習の間に深い関係があることを示唆する.物体概念の学習と言語構造の関係を調べるためにまず,成人に対して日常的な物体に対する知識構造の調査を行い,多変量解析によりその統計的構造を分析した.次に,この構造に「ある」,「いる」や加算/不可算名詞に相当する言語情報を付加した場合の知識空間の変化を調べた.その結果,従来言われているように個別性という単一次元の境界が移動するというより,多次元空間に言語情報が加わることで英語の場合固体性,日本語の場合生物性に対応する区分が顕在化することがわかった。このデータを用いて,Smith教授のグループの実験データのシミュレーションを行った.言語構造により,知覚次元に対する重み付けが変化することを利用して,単純な計算論的モデルを構成することにより実験データを定量的にかなりよく再現することができた.さらに,この結果を注意の配分を学習できるニューラルネットワークを用いて実装した.関連する研究として,物体概念の諸特性を調べるために無意味輪郭図形の類似性,複雑性の多変量解析による研究,色と形態の情報を統合した物体表象を動的な状況で保持するメカニズムに関する研究を成人で行った.
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