研究概要 |
長期記憶形成には新たなシナプス形成を含む長期シナプスの可塑性の発現が必要とされているが、検証した例はまだ少ない。eag Sh変異体ではKチャンネルの発現変異により神経細胞の活動に著しい亢進がみられ、3齢幼虫の神経筋シナプスでは野生型に比べてシナプス部位の増加、シナプス電量の増大(長期シナプスの可塑性)がみられるようになる。また、dnc変異体ではcAMPの分解酵素であるPhosphodiesteraseの発現変異により細胞内cAMPレベルが上昇し、eag Sh同様、シナプス部位の増加、シナプス電流の増大が起こっている。従って、野生型に対してこの両者で共通に発現変異を起こしている遺伝子群の中に、長期シナプスの可塑性の発現に関与しているものが含まれていると考えられる。この遺伝子群を検索するべく、ショウジョウバエデータベース(FlyBase)をもとに作成されたGene Chip (Affymetrix, Amersham)で野生型vs eag Sh、野生型vs dncと遺伝子発現プロファイルの解析を行い、野生型に対してeag Sh、dncでともに発現変化を起こしている遺伝子およそ100個を検索した。また、併せて長期記憶の異常を指標にした変異体検索を行い、Gene Chipの結果と比較した。その結果、新規の長期記憶変異体ruslanで変異を起こしているruslan遺伝子は細胞接着因子Klgをコードし、その発現がeag Sh、dncで共に上昇していることが見出された。Ruslan (Klg)タンパクに対するペプチド抗体を作成し、その分布を調べたところ、脳内のグリア細胞と思われる細胞に特異的な発現が認められた。現在グリアマーカーとの共存や、グリア特異的な回復実験による検証を行っている。
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