研究概要 |
本年度は、ラット胎児期に経胎盤的にメチル水銀を投与することにより作成した皮質形成異常モデル動物について、その遺伝子発現をBDAチップを用いて解析した。 妊娠第16日のラット母体に20mg/kg相当のメチル水銀を経口的に投与することにより、神経芽細胞の移動が活発に行われている時期の胎児に、経胎盤的高濃度メチル水銀投与を行った。投与48時間後、胎児終脳外套背側部の組織を採取し、mRNAを抽出した。その後、cDNAに変換し、増幅とラベリング、断片化を行い、DNAチップ上でハイブリダイゼーションを行い、総計26,397個の遺伝子プローブセットについての発現解析を行った。メチル水銀に暴露した胎児組織においては、アップレギュレートしているプローブは2,259個(全体の8.16%)、ダウンレギュレートしているものは2,097個(7.9%)であり、そのうち対照群と比較して2倍以上の増減を示したものは、それぞれ476個(1.8%)、293個(1.1%)であった。メチル水銀暴露により、細胞骨格蛋白・細胞周期・転写因子・代謝関連蛋白・細胞外基質など、胎児脳では、実に様々な分子種が変動していることが解った。組織学的現象と密接に関連した分子を特定し、更にそれらの分子カスケードを知るためには、分子生物学的解析を進めるとともに、in vitro、in vivo両実験系への展開が必要と考えられた。 現在、このような皮質形成異常動物モデルにおけるさらなる解析とともに、ヒト難治てんかんにおける皮質形成異常切除脳の解析に着手した。我々が動物モデルに関しても解析を行っている目的は、手技の高度、正確な習得と併せ、組織像とその異常の形成過程に即した分子の変動パターンを知ることができるという点にある。そこで得られた知見はヒトの皮質形成異常の検索にも必ずや役立つものと考えている。
|