メダカのGV期卵子とMII期卵子を、種々のシュクロース液に浸し、相対的体積を測定することによって、卵子の固形分含量と水透過性を算定した。その結果、GV期卵子は、MII期卵子に比べて、固形分含量は低く(42%)、水透過性は高かった。また、エチレングリコール、プロピレングリコール、DMSOなどの耐凍剤に対する透過性もGV期卵子の方が高かった。さらに、GV期卵子に、耐凍剤を過させるタイプのアクアポリンのcRNAを注入することにより、耐凍剤透過性をさらに高めることができた。MII期まで成熟卵子は、排卵後淡水に適応するために、低浸透圧に反応しないメカニズムを備えるのではないかと推測される。以上のことから、成熟したMII期卵子より未成熟なGV期卵子の方が、凍結保存に適していると考えられた。 メダカの卵子や胚を凍結保存するにあたって、適するステージを知ることを目的に、低温に対する感受性をしらべた。GV期の卵子は、0℃で20分間処理しても、ほとんどすべてがMII期まで成熟したことから、低温感受性はほとんど有していないと推測された。これに対して、受精後まもない2〜4細胞期胚は低温に対する感受性が高かった。しかし、低温処理胚の孵化率は、処理時間や処理温度とともに、徐々に低下したことから、メダカ胚の低温感受性は、同じ小型魚類のゼブラフィッシュ胚の感受性より弱いと考えられる。胚の低温感受性は、その後8細胞期から胞胚期へと進むにつれて低下した。さらに、初期嚢胚期では、低温感受性はほとんど見られず、一部の胚は、0℃では5日間、5℃では10日間保存したのちにも孵化することができた。本研究では、卵子や胚の凍結保存に成功するには至らなかったが、少なくとも短期間の低温保存が可能なことが明らかとなった。
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